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『パラサイト 半地下の家族』 ~現代社会に蔓延る”格差”に絡む、人間の本質を描く~

Review
ネタバレ注意

本記事は、ところどころで物語の核心やラストの展開に触れているため、実際に作品を視聴された方に適しています。

「世界中の映画監督が、嫉妬に狂ったのではないだろうか…」と心配せずにはいられなかった。それほど強い力に腕を掴まれ、グンっと惹き込まれるような作品だった。
換気のされていない部屋のカビと下水臭の蔓延する貧困のにおい、埃ひとつ落ちてない無機質とも言えるステンレスでできたような富裕層のにおいが、移り変わるシーンごとにしっかりと漂ってくるのだ。映画を観ているようで、その場に自分が存在しているかのように感じられる。徹底的にセットにこだわり、細部までとことんリアルを追求した結果が顕著に現れている。
個人的には間違いなく、近ごろ視聴した映画の中でダントツで1位となった作品だ。

 
  1. 1. あらすじと作品の概要
  2. 2. ストーリーの見どころを追う(!ネタバレ!)
  3. 3. 貧困と富裕、明暗の2つの世界が混じり合うとき
  4. 4. おわりに。

あらすじと作品の概要

<あらすじ>
4人家族のキム一家は厳しい競争社会の波に乗れず、全員が失業中。貧困層の住居のスタンダードである “半地下” と呼ばれる物件に、家族で所狭しと生活していた。そんな家族に転機が訪れたきっかけとなったのが、長男ギウの友人が「家庭教師の代理を引き受けてくれないか」という依頼を持ちかけてきたことから始まる。IT会社の経営で成功している富裕層のパク家へ入り込むため、その場の閃きと綿密な計画を持って貧しい身分を隠して偽り、タイトル通り寄生(パラサイト)する生活が始まるが…

原題 기생충
制作国 韓国
公開年 2019.5(Korea)| 2020.1(JP)
上演時間 132分
監督 ポン・ジュノ
脚本 ポン・ジュノ、ハン・ジンウォン
登場人物(キャスト) キム・ギテク(ソン・ガンホ)
キム・ギウ(チェ・ウシク)
キム・ギジョン(パク・ソダム)
キム・チュンスク(チャン・ヘジン)
パク・ドンイク(イ・ソンギュン)
ヨンギョ(チョ・ヨジョン)
パク・ダヘ(チョン・ジソ)
パク・ダソン(チョン・ヒョンジュン)
ムングァン[パク邸の元家政婦](イ・ジョンウン)
オ・グンセ[ムングァンの夫](パク・ミョンフン)
ミニョク[ギウの友人で、ダヘの元家庭教師](パク・ソジュン)

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ストーリーの見どころを追う

ネタバレ注意

本記事は、以下より物語の核心やラストの展開にがっつりと触れています。実際に作品を視聴された方、視聴前だけどネタバレ見ても別に良いという方に適しています。

いっときも目を離してはならない映画、の代名詞がまさに本作のことではないかと思う。伏線だの伏線回収だのと書くと途端に安っぽくなってしまうが、登場人物の放った言葉がいたるところで関連性を帯びて、二度三度と視聴するたびに「ここにも繋がりが!」と新たな発見に出会えるのだ。
観賞のヒントに、<象徴的><計画><におい><度を越す>あたりのキーワードに着目するのをお勧めする。


ギリギリで保つ自尊心と、散りばめられたその地雷

人の自尊心を擦り減らし、激昂させるかもしくは心を擦り減らさせるのは簡単だ。それも、計画的に意図的にやるよりも、自分の立ち位置がこの世のスタンダードであると信じて疑わず、悪気なく相手の地雷を踏むことの方が容易で、かつ非常にタチが悪く、相手を100%非難できない時点でとても憤りを感じるのだ。

極簡単に書いてしまえば、キム一家は半地下にしか住めない貧乏家族で、対するパク一家は成功した経営者の裕福な家族。両家族がそれぞれに置かれている環境があり、それによって形成されていく自分なりの哲学や思想を持ち合わせるのは当たり前だ。
「どちらが善でどちらが悪か」などという簡単なものではない。しかし、いわゆる “持たざる者” が未分不相応の野望を持ち始めると、良くも悪くも歯車が乱れ出してしまう事態は免れないのだ。本作では、持たざる者たちが、持つ者の領域に歪な形で進出し、ほんの一瞬だけその甘い蜜を享受し、その後転落の一途を辿り、やがては絶望的な破滅へと向かう様子が、まるでイカれたジェットコースターのようである。

さて、では小見出しにも記載した地雷だが、父ギテク(ソン·ガンホ)がキム家を代表して、自尊心とその乱れ、崩壊の様子を、素晴らしい演技力と演出で表現されている。
そのきっかけは、パク家の父ドンイクが、キム家のギテクと息子のギウ、娘のギジョンの3人がすぐそばのテーブルの下に隠れていることを知らずに、

「あの運転手は嫌な臭いがする。古い切り干し大根、煮洗いした布巾の臭い。地下鉄の中の臭いにも似ている。臭いが度を越している」

と、自分の妻に愚痴をこぼしているのをまざまざと聞かされたことだ。しかも、両隣に自分の娘と息子がいる状況で
さらにそれだけではなく、パク夫妻がそのままその場で性行為を始めてしまうわけで、当然同じ空間にいるキム家はその行為の気配や声が耳に入ってくるわけだ。想像するだけでいたたまれなくて仕方がないが、大の男がゴキブリのように暗くて狭い場所に身を潜め、自分の息子や娘が隣にいる中で、身分の高い者たちの夜の営みを間近に感じるなんて、屈辱と言わずなんと言うのだろうか。
半地下に住む身分の低い自分たちの忌々しいニオイを、あらゆる形で知らしめられ、さらに低地に住む人々を浸水被害に陥れた豪雨にも貧困層をこれでもかと苦しめられ、結果、その翌日のパーティーの殺戮を迎えてしまったのは一目瞭然だが、それ以外にも散りばめられている “屈辱を感じさせる要素” の蓄積は、この場で説明するよりもやはり作品にどっぷり浸って是非感じて欲しい。
あの事件は決して唐突でもなんでもなく、しかるべき道筋を経過したあり得る事象なのだ。

ちなみに、必死で自尊心を保ち、地雷を抱えているのはパク家も同じだ。キム家とは質が違うだけなのだ。裕福であるがために生じる悩み、決して踏み込んで欲しくない聖域に侵入されることへの恐れ、なかなか仮面を外せないが故に蒸れてうずく本当の姿など…非常に丁寧に、かつシンプルに描かれているので、是非両家族の抱える地雷を探してみて欲しい。


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貧困と富裕、明暗の2つの世界が混じり合うとき

本作のレビューで書かれている表現で多いのは、「貧富の差を縦の構造とした視覚的表現が見事」「格差のコントラスト、明暗の描き方が明確」と言ったものであり、本当にその通りなのだ。
ただ、その貧困と富裕、明暗、いわゆる光と闇が “パラサイト” という抽象によって少しずつ混じり合っている感覚が、個人的に最もぞくぞくしたものだ。例えるなら、重く粘り気のある白と黒のインクを隔てていた壁に小さな穴が空けられ、強制的にゆっくりと混じり合わされているのを見ているような、妙な違和感というか嫌な感じ。

“混じり合う” とは書いたものの、決して双方が互いの立場を理解をし合えて希望が見える、と言うことではまったくない。持つ者持たざる者、普通に生活していれば決して関わることのないこの2家族が、歪な形で関係性を構築してしまうことに言及している。
痛々し過ぎるほどにお互いをわかり合えない。だから、持つ者は「なぜ彼らは持て(た)ないのか」という思想にまで至ったところで寄り添うことなんてできないし、持たざる者は周囲の何気ない言動や環境の変動を目の当たりにして地雷を発動してしまう。どちらが善い悪いという次元の話ではなく、人は自身の居る立ち位置や思想が正義だと信じて疑わないから、そこに異物が入ってきたときには、過剰なまでの拒否反応が示されるのだ。

ちなみに、このことは貧富の違いに限らずではないか。
男と女、上司と部下、キャリアのある者と家庭にいる者…あらゆる立場に対して起こり得ると言えるだろう。どちらが “持つ” か “持たざる” かはケースバイケースであり個々人の価値観にもよるので、そこに触れはしないが。


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おわりに。

私自身、韓国映画を観賞したのは、本作が人生で2作目だったかと記憶している(『僕の彼女を紹介します』以来だからもう10年以上か…)。正直、食わず嫌いであった。
そんな私であっても今回観てみようと思えたのは、やはり、カンヌ国際映画祭でパルム·ドールを受賞、アカデミー賞で作品賞を始めとする4部門の賞を獲得したという情報を得たからだ。清々しいほどにミーハーな理由だが、実質初めて触れたと言ってもいい韓国映画が『パラサイト 半地下の家族』で心から良かったと思っている。現に、その後に何本か韓国映画を視聴するに至ったわけだから。

私は基本的にミステリーや歴史·伝記物を好んでよく観るが、そのジャンルにおける韓国映画の、薄暗く錆のニオイがするような、日本映画のそれとはどこか異なる鬼気迫る臨場感がとても気に入った。当然、監督や脚本や演出によりけりではあるだろうが、韓国映画の魅力に気付かせてくれた本作に出会えたことは、自分自身の値観を育てていく上で大きな糧となり、素直に喜ばしいことだった。

それではまた次回まで。


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